タイトルの通り、元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏の「不本意な敗戦」を読みました。
この本は書店に並んだころから気になっていたいたのですが今まで読まずにいました。
著者の坂本氏には大変失礼ですが、
という程度の感じで認識しており、読まなくてもいいだろうと思っていたからです。
実際に読んでとても面白く、半導体産業のような資本力の必要な業種の経営について考えさせられる一冊でした。
目次
読んで見たいと思ったきっかけ
なぜ「不本意な敗戦」を読もうと思ったかというと、これまた別の書籍になるのですが最近読んだ「戦後経済史は嘘ばかり」という本のあとがきで(極短い一節ですが)エルピーダメモリのことが取り上げられていたからです。
本書で、エルピーダの倒産の要因として、
為替がウォン(韓国)と比べて70%も開きがあり、70%の差はテクノロジーで2世代分の差が無いと埋められない
という坂本社長の発言が取り上げられていたのが目に留まりました。
著者の高橋洋一氏はパソコンの自作が趣味で、エルピーダのメモリは品質がよいのでお気に入りだったそうですが、エルピーダメモリがすごく品質のよい製品を作っても為替相場が不利な状況であれば、そんなものは無意味で会社が潰れてしまうという話です。
この一節を読んで、
「そうなのか!だとしたらエルピーダメモリは単なる負け犬ではなかったのかも」
と思い即座に「不本意な敗戦」のことを思いだし読んでみたいと思いました。
※なお、「戦後経済史は嘘ばかり」では著者の高橋洋一氏は、エルピーダの再生については無意味な官制再生と切り捨てており、またお金を刷って為替相場を適切にコントロールしなかった日銀のことを批判しています。この本もとても面白かったのでまた後日書評を書きたいと思います。
関連書籍
以前に、ブログでも書いていましたが「日本型ものづくりの敗北」という本を以前に読んでおり、その本の中でエルピーダメモリのことが触れられていて、なんというかあまりいい印象を持っておりませんでした。(改めてこちらの書籍を読み返してみると、著者の湯之上氏は坂本氏のことはそれなりに評価されていたようです(湯之上氏は日立からエルピーダに出向して、エルピーダの社員として仕事をされていたそうです。NEC流の仕事の進め方が性に合わなかったのか書籍ではNECに対する批判が目立ちました)
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感想
さて、「不本意な敗戦」は6章の構成で書かれていますが
1章:モバイルで復活
2章技術をとだえさせてはならない
まではDRAMのビジネスについて・会社更生法申請後の話が中心ですので個人的にはあまり面白くありませんでした。
が、
3章:エルピーダの多難な船出
以降は元TI(テキサスインスツルメンツ)の坂本氏がエルピーダの社長に就任する経緯から更生法適用に至るまでかかれており、読み応えがあり非常に面白かったです。
坂本氏は自身の経営の反省点として
「メインバンクを作らなかったこと」
をあげられております。
また
第6章:2つの勝ちパターン
では坂本氏が、ホンダのような「愛情経営」かソフトバンクやサムスンのような「スピード経営」の重要性を語られており、同時にIP(知的財産)を経営に活かすことの重要性も語られておりとても勉強になりました。
全体を通して、TIという外資系企業で長年働かれていた坂本氏はいい意味で日本人離れした感覚を持った人だと思いました。
坂本氏のような経営者がもう少し増えると日本の企業・社会ももっとダイナミックで面白くなるんじゃないかと思います。
坂本氏はTIという外資系企業出身ですが、
- 現場の人間のリストラはしない
- (国策企業で、寄り合い所帯の)エルピーダメモリをなんとか生産性の高い企業にしよう
と、芯をもってエルピーダメモリの経営にあたられていらっしゃたんだろうと本書を読んでと思いました。
なので読み終わった後の印象としては、決して「負け犬の言い訳」ではなく「半導体メーカーの経営奮闘記」という印象です。
- 作者: 坂本幸雄
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2013/10/08
- メディア: 単行本
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日本の半導体産業は苦しい状況に立たされているようですが、本書で語られている坂本氏の考えは現場の方や経営者の方にとっては参考になる意見ではないでしょうか。(部外者の私が偉そうに語ることではありませんが)
本書はエルピーダメモリという半導体メーカーの話ですが、個人的には組み込み系ソフトの仕事をさせて頂いていることもあって、いつもCPUを使わせてもらっているルネサスの今後に関心があります。
ルネサスは、ステークホルダーとのしがらみなどで経営の方向性がしっかりと定まらなかったりしているようですが、やはり日本のメーカーとして、
「日本にルネサスあり」
という国際的な競争力・存在感を持つ半導体メーカーになって欲しいと思います。がんばれルネサス!
※RXについてはブログに記事を書いたりしていますが、今後もいろいろ記事を書いたりして紹介したいなぁと思います。(RXのStarterkitが個人で買える値段になると嬉しいのですが)
補足
冒頭でも少し書きましたが、本書と「戦後経済史は嘘ばかり」を読み終えてみて、もっと経済学について勉強したくなりました。
「為替レートが圧倒的に不利であれば経営者がどんなに頑張って経営努力をしても、競争力を持って海外の企業と戦えない」
というのが真実であれば、
まさに本書のタイトルのように「不本意な敗戦」を迎える企業はいつ出てきてもおかしくないのではないか思います。
※2016年現在では、坂本氏がエルピーダを経営されていたころとは日銀の総裁も政権も違っていますが。
そういう意味では、「不本意な敗戦」と「戦後経済史は嘘ばかり」は、
「努力が報われる場所で努力することの重要性」
を教えてくれている気がしています。
高橋洋一氏はマクロ経済学の重要性をよく語られていらっしゃいますが、マクロ経済学をきちんと理解すれば、
「論理をベースにした大局観」
のようなものが得られるような気がするのです。
私自身、30代になりいろいろな経験をすることが増えてきましたが、物事を判断するときに「大局観」を持って判断できるようになりたいと最近強く感じます。
何かを判断するときにはどうしても目先の損得や、自分だけの利害、あるいはせいぜい自分に近い範囲内での利害に目が行ってしまい、反対にそれを避けようとする意志との葛藤で何が正しい判断なのか分からなくなることが多いです。
大局観・広い視野を以て、物事を判断できるようになれれば、もっと人生が豊かなものにできるのではないかと思います。
その大局観も、ソフトウェアに関わる人間として、論理性というのを大切にしたいです。論理性がないと人に理解して貰いにくいですからね。
そういう意味で経済学というのはなんとなく適しているのではないかと今は考えています。
※もちろん論理性だけではだめで、判断の中心にはやはり「愛」とか「情」のような自分以外を尊重する思いもないとだめで、そういう面も磨かないと正しい判断にはならないと思いますが。
今後は経済学について勉強した成果もしっかりブログにあげていきたいと思います。